スキルアップ

化学療法を受ける動物に対する動物看護師が備えておくべき3つの予備知識

化学療法は、悪性がん治療の一つであり、手術や放射線治療など部分的治療ではなく、体全身に行き渡る治療で、その70%の場合は、抗がん剤を静脈のルートで投与します。
今回はそんな化学療法を動物たちに施す際、看護師が頭に入れておくべき予備知識をご紹介します。

1. 動物に優しく

当たり前のことに聞こえますが、癌を患っている動物の80%以上は、高齢になります。保定そのものがストレスになったり、関節炎などから苦痛を伴う体勢があったりします。そのため、留置針の挿入時には、腕や脚を引っ張りすぎないような気遣いや、動物の座りやすい体勢を心がけたり、マットや柔らかいクッションを用意したりします。
オーストラリアは、大型の犬の飼育が多いです。噛みぐせがあったり、警戒心の強い犬には、口輪をつけたり、ゆっくりしたアプローチ方法を使って、怖がらせないようにします。そのほかには、抗不安剤や鎮静剤を取り入れて、ストレスを感じさせないように心がけるアプローチも大切な方法の一つになります。

2. 体表面積の計算

抗がん剤は細胞に毒性を与えます。薬用量が動物に対して多過ぎた場合は、その動物に重度の副作用を引き起こすことがあります。
皆さんは、体表面積(BSA)のことをご存知でしょうか。体重は体内にある脂肪組織に左右されやすいですが、動物体表面の総面積である体表面積は、基礎代謝量に近似的に比例するため、抗がん剤の薬用量計算に用いられています。小動物の計算式は以下に示されています。

一見すると、複雑な計算式に思えますが、徐々に慣れてできるようになります。その一方で、慣れから計算を誤ってしまうと間違った薬用量を投与することになって、その結果、動物に重度な副作用を引き起こす可能性が高まります。そのようなことを起こさないよう、私が勤務するオーストラリアの動物病院では、必ず2人が計算を確認する規則になっています。

副作用の知識

抗がん剤は、増殖の速い細胞に強く働きかけます。主な副作用は、食欲不振、下痢、嘔吐、好中球減少症、血小板減少症や脱毛です。これらの症状が起きたら、重度によって治療の方法が変わってきます。私が勤務するオーストラリアの動物病院では、動物看護師がこれらの知識を持つことで、飼い主さんとの電話の対応でのアドバイスの内容が変わってきます。オーストラリアでは、あまり重態ではなく、経口薬の投与や自宅で看護できる範囲である場合から、緊急入院が必要な場合までのどの段階にあるのかの見極めが重要になってきます。その判断として参考になるのが、以下のグレード分類表です。重度な副作用があった場合には、次回同じ薬を投与する際に薬用量を減らし、動物のクオリティ・オブ・ライフ (QOL)をアセスメントすることが重要になります。

監修 日本獣医がん学会獣医腫瘍科認定医認定委員会 獣医腫瘍学テキスト 2013年 p.240

 

執筆者の紹介

伊藤 桃子先生
専⾨:小動物腫瘍内科
所属:BVSCブリスベン動物スペシャリストセンター
BAppSci(Vet Tech)/米国獣医内科看護学専門動物看護師(腫瘍内科)
オーストラリア・ブリスベン在